南の島の疑惑 [事件事故]

 スピードボートが着いたのはリゾートのある島のほうではなく、病院がある大きな島の方だった。
夫と二人で港で待っていると、リゾートの島から別の船で、溺死した女性とその夫が着いた。
女性を覆っているビニールを現地スタッフがめくってみせると、白い顔に目が閉じ切らない女性の顔が見えた。うっすらと細目を開けているかのようだった。初めて溺死した人を見たが、彼女は生きていた時よりも顔が水で少し膨らんでいるかのようだった。
 遺体は病院内に運ばれ、手術台の上に置かれた。その横に彼女の夫、田山氏(仮名)がいて、私と夫は廊下にいた。
すると中の医師に私と夫が呼ばれ、田山氏が診察台に寝かされているのを見た。
インド人のような女医さんが、田山氏の二の腕に注射をした。鎮静剤の注射だった。
注射で落ち着いたころに女医さんは田山氏の足の指先がサンゴ礁でギザギザに切れているのに軟膏を塗って手当をしながら彼の妻の死を告げた。
すると田山氏は顔を覆って泣いたが涙が出てなかったのをそばで通訳していた私は見てしまった。
 涙も乾いてしまったのかもしれない。慰めなくてはと思った私は田山氏の肩に触れたが、特に震えるということはなかった。
まもなく田山氏は注射の効果か眠りにつき、私と夫は病室の外の廊下で朝までベンチに座っていた。
南の島の最初の夜が木製ベンチでの徹夜だった。(つづく)
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